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こんにちは!WINC研究員の伊藤(以下、RI)です。
前回に引き続き、今回講師を担当されるのは植田さん(以下、YU)です。よろしくお願いします。
YU:はい、よろしくお願いします。
RI:前回は、風条件を評価するうえで重要なパラメータの一つである「極値風速」について解説していただきました。今回は、もう一つ重要なパラメータである「乱流強度」について詳しくお話しいただきます。
それではまず、乱流強度とはどのような指標なのか、基本的な定義から教えてください。
YU:乱流強度は、風速の標準偏差を風速の平均値で割った値で、風の乱れの強さを表す代表的な指標です。風車の設計に用いられる乱流強度は、国際規格であるIEC61400-1で規定されています。現在の最新版は第4版ですが、第3版から第4版への改訂に伴い乱流強度の定義が変更されました(詳細については「風車ノート(3)風車の設計基準」で紹介しています)。今回は、乱流強度の基本的な考え方を理解することを目的として、第3版をベースに解説していきます。
また、IEC61400-1では、乱流強度を「通常条件」「ウェイクを考慮した条件」「極値条件」の3つの観点から評価します。今回は通常条件における乱流強度について解説し、次回以降はウェイクを考慮した乱流強度、さらに極値条件における乱流強度について紹介します。
さて、通常条件における乱流強度についてですが、ひとことで言うと「乱流強度の90%分位値」を意味します。乱流強度は、風車を建設するサイトにおける値と、評価基準となる設計値のそれぞれについて算出方法が定められています。
サイトにおける乱流強度は、1Hz以上でサンプリングされた風速の時系列データについて、10分ごとに平均風速$v$と風速標準偏差$\sigma$を求め、それらの比($\,\sigma⁄v\,$)として算出します。その後、得られた値を風速ビンごとに整理し、各風速ビンにおける乱流強度の90%分位値(90パーセンタイル値、${TI}_{90}$)を求めます。このとき、各風速ビン内の乱流強度の分布に正規分布を仮定すると、90%分位値は以下の式で表されます。
\begin{equation}
{TI}_{90,site} = {TI}_{ave,site} + 1.28\,{TI}_{site}^{\sigma}
\label{eq:1}
\end{equation}
ここで、${TI}_{ave,site}$は乱流強度の平均値(正規分布の場合は50%分位値に相当)、$TI_{site}^{\sigma}$は乱流強度の標準偏差です。
風速ビンごとの乱流強度分布の概念図
各点は乱流強度の観測値を示す。各風速ビン(水色シェード)に含まれる観測値をフィッティングすると、正規分布(赤曲線)として表される。正規分布の中心が乱流強度の平均値(${TI}_{ave}$)、90%分位値が${TI}_{90}$に相当する。NTMは、各風速ビンにおける${TI}_{90}$を結んだ線として表される。
この算出値と設計値を比較することで、風車が設計条件を満たしているかの評価を行います。設計値については、IEC61400-1の6.3節で規定されているNormal Turbulence Model(通常乱流モデル、NTM)の式を用いて求めます。
NTM式では、各風速ビンにおける乱流標準偏差${\sigma}_1$を経験式として表し、これを用いて乱流強度を算出します(図2a)。
\begin{equation}
{\sigma}_1 = I_{ref}\,(0.75\,V_{hub} + 5.6)
\label{eq:2}
\end{equation}
ここで、$I_{ref}$は風速15 m/sにおける乱流強度の期待値で、表1に示すように乱流カテゴリごとに定められています。そして、${\sigma}_1$を各風速ビンにおけるハブ高風速の平均値$V_{hub}$で割ることで、設計時の乱流強度が求められます(図2b)。
\begin{equation}
{TI}_{90,design} = \frac{{\sigma}_1}{V_{hub}}
\label{eq:3}
\end{equation}
風車クラスを決定する基礎パラメータ(ハブ高さ)
| パラメータ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | S | |
|---|---|---|---|---|---|
| 年平均風速: $V_{ave}$ [m/s] |
10 | 8.5 | 7.5 | 製造者が規定 | |
| 10 分平均基準風速: $V_{ref}$ [m/s] |
50 | 42.5 | 37.5 | ||
| 熱帯地域における 10 分平均基準風速: Tropical, $V_{ref,T}$ [m/s] |
57 | ||||
| 乱流カテゴリ: $I_{ref}$ |
A+ | 0.18 | |||
| A | 0.16 | ||||
| B | 0.14 | ||||
| C | 0.12 | ||||
RI:式(\ref{eq:1})~(\ref{eq:3})を見ていて気になることがあるのですが…サイトにおける「風速標準偏差$\sigma$」と、設計値における「乱流標準偏差${\sigma}_1$」は、どちらも風速で割ることで乱流強度の次元(無次元)になるので、物理的には同じものと考えてよいのでしょうか。また、式(\ref{eq:2})で求められる${\sigma}_1$は、90%分位値に相当する値なのでしょうか。
YU:良い質問ですね。「風速標準偏差$\sigma$」と「乱流標準偏差${\sigma}_1$」ですが、物理的にはどちらも風速のばらつきの大きさ(標準偏差)を表しており、同じ種類の物理量です。ただし、この2つは少し異なる意味を持ちます。
風速標準偏差$\sigma$は、観測した風速(wind speed)の時系列から求める標準偏差であり、サイトにおける実際の風速変動を表します。一方、乱流標準偏差${\sigma}_1$は、設計モデル(NTM)に基づいて与えられる標準偏差です。設計上想定する変動風速度(turbulent wind velocity)の主風向成分について、その平均値だけでなく、ばらつきも含めて表した値です。
また、お察しの通り、${\sigma}_1$は各風速ビンにおける乱流標準偏差の90%分位値に相当する値です。正規分布を仮定すると、
\begin{equation}
{\sigma}_1 = \hat{\sigma} + 1.28\,{\hat{\sigma}}^{\sigma}
\label{eq:4}
\end{equation}
となり、式(\ref{eq:1})と同じ形で表されます。ここで、$\hat{\sigma}$は乱流標準偏差の平均値で、”周囲乱流標準偏差”と呼ばれます。${\hat{\sigma}}^{\sigma}$は乱流標準偏差の標準偏差です。
RI:なるほど、スッキリしました。ところで、乱流強度の評価に90%分位値を使うのは何故でしょうか。
YU:これも良い質問です。ではまず、90%分位値が統計学的にどのような意味を持つかを考えてみましょう。
90%分位値とは、あるデータ集合において、データを小さい順に並べたときに全体の90%が含まれる位置の値を表します。すなわち、上位10%に相当する値で、全体の中では比較的大きい値ということになります。最大値であれば外れ値の影響を受ける可能性がありますが、90%分位値であれば極端な値の影響を抑えながら、データの代表性を保った評価が可能になります。
乱流強度の評価に必要なのは、まさにこのような特徴です。風車設計では平均的な乱流強度だけではなく、それより高い乱流状態も考慮する必要があります。乱流強度の90%分位値を用いることにより、発生頻度は低いものの、現実に起こり得る大きな乱れを評価することができます。
RI:確かに、統計学的観点から、乱流強度の評価に90%分位値を使うのは理に適っていますね。式(\ref{eq:1}), (\ref{eq:4})において「90%分位値 = 平均値 + 1.28 × 標準偏差」の形式で表されるのも、統計学の理論通りだなと思いました。式(\ref{eq:2})は経験式ですが、統計学的説明はできないでしょうか。
YU:式(\ref{eq:2})についても、統計学的な視点から考えることはできます。先ほど示した通り、IEC61400-1第3版では、$I_{ref}$は「風速15 m/sのビンにおける乱流強度の期待値」と定義されています。乱流強度の分布を正規分布と仮定すれば、期待値は平均値に相当します。
では、NTM式に具体的な値を代入して考えてみましょう。式(\ref{eq:2}), (\ref{eq:3})より、
\begin{equation}
{TI}_{90,design} = \frac{I_{ref}\,(0.75\,V_{hub} + 5.6)}{V_{hub}} = 0.75\,I_{ref} + 5.6\,\frac{I_{ref}}{V_{hub}}
\label{eq:5}
\end{equation}
例えば、風車クラスⅠAでは、$V_{hub} = 10, I_{ref} = 0.16$ なので、
\begin{equation}
{TI}_{90,design} = (0.75 \times 0.16) + \left(5.6 \times \frac{0.16}{10} \right) = 0.2096
\label{eq:6}
\end{equation}
と求まります。
この式は経験式であるため、各項に統計学的な意味が厳密に与えられているわけではありません。しかし、第1項を平均値、第2項を標準偏差の1.28倍に対応する項と捉えると、統計学の理論式とよく似た構造になっていることが分かります。また、実際の観測データと比較しても、オーダー感としては概ね整合しています。
なお、IEC61400-1第4版では、$I_{ref}$は「乱流強度の参照値・基準値(reference value)」として位置付けられ、第3版のような「期待値」という統計的な意味合いは薄れています。この背景には、世界各国での風力発電の普及と、それに伴う多様な風況への対応があります。
NTM式はもともと、デンマークをはじめとする欧州の平坦地形における比較的乱流の小さい風条件をもとに構築されています。一方、日本のような複雑地形では乱流標準偏差$\hat{\sigma}$が大きくなる傾向があり、第3版のように$I_{ref}$を「期待値」と解釈すると、実際の乱流特性との整合が取りにくくなります。そこで第4版では、日本をはじめとする各国から提供された大量の観測データをもとに設計基準が見直され、NTM式の形は維持したまま、$I_{ref}$を「参照値・基準値」と位置づけることで、より安全側の基準となるよう整理されました。その結果、第4版における$I_{ref}$は、第3版の期待値よりも大きく、統計学的にはおおよそ70%分位値に相当する値となっています。
RI:つまり、NTM式は統計学の考え方を踏まえつつ、様々な乱流条件に適用できるようチューニングされた経験式なのですね。第3版と第4版で式の形を変えずに$I_{ref}$の解釈を見直した、というのも興味深いです。
YU:さらに、乱流カテゴリを「A+、A、B、C」の4つに区分したのも、多様な風況に対応するための工夫です。それぞれに対応する$I_{ref}$の値は、多数の観測データを基に設定された経験的な値ですが、風車設計に必要な安全性と実用性のバランスを考慮して定められています。そのため、「A+、A、B、C」という区分に物理的な境界があるわけではなく、設計上の利便性を考慮した分類と理解するとよいでしょう。そして、この設計値とサイトの乱流強度を比較することが、サイト評価の基本的な考え方となります。
今回は自然風による乱流だけを考えてきました。しかし、実際の風力発電所では、もう少し複雑な現象も考慮する必要があります。そのあたりは、次回一緒に考えていきましょう。
さらに詳しく知りたい人へ
- IEC 61400-1:2019 | IEC
- IEC61400-1 ed.3とed.4の風モデルの違い – 風ノート
- 今村他, 風車疲労荷重に与える複雑地形風特性の影響, 第32回風力エネルギー利用シンポジウム, 2010年32巻, p.171-174(リンク)
- 植田他, CFDを用いた乱流強度評価方法の観測データによる検証, 第37回風力エネルギー利用シンポジウム, 2015年37巻, p.245-248, 2015(リンク)
(了)


