この記事は約 8 分で読めます。
こんにちは!WINC研究員の伊藤(以下、RI)です。
前回に引き続き、今回も植田さん(以下、YU)に講師を担当していただきます。よろしくお願いします。
YU:はい、よろしくお願いします。
前回は「通常条件編」として、自然風による乱流強度について学びましたね。今回はその続きとして、実際の風力発電所で考慮しなければならない乱流について見ていきましょう。
早速ですが、風力発電所特有の乱流に関係する現象として、何か思い当たるものはありますか?
RI:そういえば、「風車ノート(2)ウェイクロス(後流損失)」の回で、ウェイクと乱流強度が関係していると習いました。
YU:よく覚えていましたね。ウェイクによる乱流は、風車の疲労(材料の耐久性)を評価する上で考慮すべき重要な要素です。
ウェイクによる乱流とは、ウィンドファームにおいて、上流側の風車によって風が乱され、その影響が下流側の風車に及ぶことをいいます。自然風の乱流に、ウェイクによる乱流が加わり、その結果、風車に作用する力の変動も大きくなります。
風車に作用する力のことを、専門的には「荷重」といいます。荷重とは、構造物に作用する力や、物体を回転させようとするモーメントのことです。例えば、建物の壁に風が吹付ければ風荷重、屋根に雪が積もれば雪荷重がかかります。風車も同様で、風を受けることで荷重が作用します。
荷重は大きく分けて2種類あります。1つ目は、台風などの強風時に作用する「極値荷重」です。いわば、風車に加わる大きな一撃に相当します。2つ目は、発電中に風の変動によって繰り返し加わる「疲労荷重」で、今回注目するのはこちらです。
疲労荷重は、風車が運転している数十年間にわたり、何千万回、何億回と繰り返し作用します(※1)。一回一回の力はそれほど大きくなくても、長期間繰り返されることで材料に損傷が蓄積し、最終的には部材の破損につながる可能性があります。ウェイクによる乱流は、このような疲労荷重を増加させる要因の一つであり、その影響を適切に評価することが、風車の安全性や耐久性を確保する上で重要になります。
(※1)疲労評価では、荷重の変動をサイクルとして数えます。サイクル数は、風車の回転に伴う周期的な荷重変動に加え、風の変動によって生じる荷重の変化も反映して決まります。一般的な商用風車(設計寿命20年、定格回転数10〜15回転/分)の場合、定格回転数で運転し続けると仮定すると、寿命期間中の総回転数は約1〜1.6億回に達します。実際のサイクル数は、風の条件や評価対象とする荷重の種類によって異なりますが、1〜10億回のオーダーに達する場合もあります。
RI:ウェイクと乱流強度は密接に関係しているのですね。では、ウェイクによる乱流は、乱流強度の評価にどのように組み込まれるのでしょうか。
YU:これまで説明してきた乱流強度は、自然風による乱流(周囲乱流強度)のみを対象としてきました。ここでは、ウェイクの影響を考慮した乱流強度(これを「有効乱流強度(Effective Turbulence Intensity)」といいます)の算定式を紹介します。ハブ高における有効乱流強度$\,I_{eff}\,$は次式で表されます(IEC61400-1:2019 附属書E):
\begin{equation}
I_{eff} (V_{\mathrm{hub}}) = \left\{\int_{0}^{2 \pi} p(\theta \mid V_{hub}) \, I^{m}(\theta \mid V_{hub}) \, d \theta \right \}^{\frac{1}{m}}
\label{eq:1}
\end{equation}
ここで、$p\,$は確率密度関数で、積分値が各風向の発生確率を表します。$I\,$は周囲乱流とウェイク乱流の両方を考慮した乱流強度です。ウェイクの影響は風向によって異なるため、それぞれの風向について乱流強度$\,I\,$を求め、その発生確率で重みづけして積算することで、風向を考慮した乱流強度を算出します。$m\,$はWöhler曲線指数(※2)です。
(※2)Wöhler曲線指数とは、材料の疲労特性を表すパラメータです。材料によって値が異なり、例えば風車のタワーなどに用いられる鋼材では$\,m = 4\,$、ブレードなどに用いられるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)では$\,m = 10\,$とされています。材料によって疲労の受けやすさは異なるため、この指数を考慮することで、材料ごとの疲労特性を反映した乱流強度を評価することができます。
各風向の乱流強度$\,I\,$の求め方は、隣接する風車との距離$\,d_1\,$によって決まっています。
(i) $\min\{d_1\} \geq 10D$ のとき:
\begin{equation}
\begin{gathered}
I = \frac{\hat{\sigma}_{c}}{V_{hub}} \\[6pt]
\hat{\sigma}_{c} = \hat{\sigma} + 1.28\hat{\sigma}^{\sigma} (= \sigma_1)
\end{gathered}
\label{eq:2}
\end{equation}
最小風車間距離がローター径$\,D\,$の10倍以上離れているとき、ウェイクの影響は十分小さいため考慮しません。ここで、$\hat{\sigma}_{c}\,$は代表周囲乱流標準偏差であり、ウェイクの影響を受けない自然風の乱流標準偏差を代表する値です。$\hat{\sigma}_{c}\,$の定義式をよく見ると、式(\ref{eq:1})と全く同じであることが分かります。つまり、先ほど設計値として用いた乱流標準偏差$\,\sigma_1\,$は、ウェイクの影響が含まれない値ということになります。
(ii) $\min\{d_1\} < 10D$ のとき:
\begin{equation}
\begin{gathered}
I = \frac{\hat{\sigma}_{eff}}{V_{hub}}
= \frac{1}{V_{hub}} \left[(1 – 0.06N) \hat{\sigma}_{c}^{m} + 0.06 \sum_{i=1}^{N} \hat{\sigma}_{T}^{m} (d_{i}) \right]^{\frac{1}{m}}
\\[6pt]
\hat{\sigma}_{T} = \sqrt{\frac{V_{hub}^2}{\left(1.5 + \frac{0.8 d_{i}}{\sqrt{C_{T}}} \right)^2} + \hat{\sigma}_{c}^2}
\end{gathered}
\label{eq:3}
\end{equation}
最小風車間距離がローター径$\,D\,$の10倍以内のとき、ウェイクの影響を考慮します。ここで、$\hat{\sigma}_{T}\,$はウェイク中心における乱流標準偏差の代表値です。$\hat{\sigma}_{c}\,$と$\,\hat{\sigma}_{T}\,$をWöhler曲線指数$\,m\,$を用いて合成することで、周囲乱流とウェイク乱流の両方を考慮した乱流標準偏差を求めます。$\,N\,$は隣接する風車の数で、表1に示すように風車レイアウトにより決まる値です。$\hat{\sigma}_{T}\,$は距離$\,d_{i}\,$の関数であり、風車間距離が大きくなるほどウェイクによる乱流は小さくなります。また、$C_{T}\,$はスラスト係数で、風車の機種により決まります。
RI:ウェイクの影響を、風向ごとに風車間距離に応じて評価するという考え方は、直感的にも理解しやすいですね。また、Wöhler曲線指数やスラスト係数といった、風車や材料の特性を表すパラメータが計算式に含まれている点も、設計のための評価式らしいと感じました。
YU:確かにそうですね。ところで最近では、百基を超える規模の大規模洋上ウィンドファームが建設・計画されています。このような大規模風力発電所では、個々の風車が生じさせるウェイクが重なり合い、風力発電所全体として風速や乱流に影響を及ぼすようになります。このように、多数の風車が設置された風力発電所全体が周囲の風を変化させる現象を「大規模効果(Large Wind Farm Effect)」といいます。
大規模効果は、これまで説明してきた風車間のウェイクよりもさらに大きいスケールで生じる現象です。そのため、IEC61400-1第4版では、このような大規模洋上ウィンドファームも考慮した評価方法が新たに盛り込まれています。具体的には、ウィンドファーム内で風車が5列以上並んでいる場合に、式(\ref{eq:3})の$\,\hat{\sigma}_{T}\,$の定義式内の$\,\hat{\sigma}_{c}\,$を次のように置き換えます。
\begin{equation}
\begin{gathered}
\hat{\sigma’}_{c} = \frac{1}{2} \left(\sqrt{\hat{\sigma}_{w}^2 + \hat{\sigma}^2} + \hat{\sigma} \right) + 1.28 \hat{\sigma}^{\sigma}
\\[6pt]
\hat{\sigma}_{w} = \frac{0.36 V_{hub}}{1 + 0.2 \sqrt{\frac{d_{r} d_{f}}{C_{T}}}}
\end{gathered}
\label{eq:4}
\end{equation}
ここで、$d_{r}\,$は風車列方向(row direction)の風車間隔、$d_{f}\,$は風車列間(row-to-row)の間隔です。式(\ref{eq:3})と比較すると、$\hat{\sigma’}_{c}\,$は大規模効果による周囲乱流の標準偏差$\,\hat{\sigma}_{w}\,$を考慮している分、$\hat{\sigma}_{c}\,$よりも大きい値となることが分かります。$\hat{\sigma}_{w}\,$は風車間隔が小さいほど大きくなり、風車群全体による乱流の増加を表現しています。
RI:風力発電所の大型化が進んでいることは知っていましたが、「大規模効果」という形で乱流強度にも影響が現れるのですね。
YU:その通りです。今回は一つ一つの式が少し複雑で大変だったかもしれませんね。次回は、乱流強度に関する最後のテーマとして、「極値条件における乱流強度」を紹介します。引き続き、一緒に学んでいきましょう。
さらに詳しく知りたい人へ
- IEC 61400-1:2019 | IEC
- IEC61400-1 ed.3とed.4の風モデルの違い – 風ノート
- 今村他, 風車疲労荷重に与える複雑地形風特性の影響, 第32回風力エネルギー利用シンポジウム, 2010年32巻, p.171-174(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jweasympo/32/0/32_171/_pdf/-char/ja)
(了)

