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こんにちは!WINC研究員の伊藤(以下、RI)です。
早いもので、社会人2年目に突入しました。初心を忘れず、今年度もスキルアップに努めていきたいと思います。
さて、今回講師を担当していただくのは植田さん(以下、YU)です。どうぞよろしくお願いします。
YU:はい、よろしくお願いします。伊藤さん、今年度も引き続き頑張りましょう!
今回は「極値風速」についてお話しします。ところで、そもそも「極値」って何か分かりますか?
RI:何となくは分かりますが、説明するのは難しいです。微積分学では極大値と極小値をまとめて「極値」と呼んでいましたが、風力でいう「極値」とは意味が違いますよね。
YU:そうですね。「極値」という言葉は様々な分野で使われているので、まずは分野ごとの定義を整理してみましょう。
【微積分学における極値】
微積分学では、ある関数$f(x)$のグラフについて、
- 山頂の値を極大値
- 谷底の値を極小値
と呼び、これらをまとめて「極値」と言います。一方、
- 最大値とは、検討している区間全体での最大の値
- 最小値とは、検討している区間全体での最小の値
を意味します。極値は必ずしも最大値や最小値とは一致しないので、注意が必要です。
【統計学における極値】
一方、統計学では、
最大値や最小値そのものを「極値」と呼ぶ
のが一般的です。統計学では、平均や分散といった代表値がよく議論されますが、それとは別に、最大値・最小値の分布に着目する「極値理論(Extreme Value Theory)」という分野があります。
最大値や最小値の分布を考えることは、実社会において非常に重要です。例えば、
- 過去に観測された最大値を、将来どの程度の確率で超えるのか
- 極めて稀に生じる事象に、どこまで備えるべきか
といった問題は、極値理論なしには評価できません。大震災や豪雨被害に耐えられるまちづくりは、その典型例です。極端で稀な事象(年最大値などの極値統計)を理論的に扱うことで、将来に備えることが可能になります。
例えば、図2のように風速の極値を推定する場合、風速時系列データから、年ごとに最大値を抽出し、分布関数でフィッティングします。ここでは、GEV分布(ガンベル分布、フレシェ分布、ワイブル分布の3つの極値分布を組み合わせたもの)を仮定し、パラメータ$ξ,μ,σ$の値を求めます。次に、求めた分布関数を用いて、再現期間50年に相当する風速の最大値を推定します。
【風力分野における極値】
実は、風力分野で用いられる「極値」も、この極値理論に基づいています。「風車ノート(3)風車の設計基準」で説明したように、風車は
稀に発生する非常に強い風
に耐えられるように設計しなければなりません。この非常に強い風こそが「極値風」であり、その値は
再現期間50年に相当する風速の最大値
を意味します。つまり、風力分野では、過去の風速データから、今後50年間で吹く可能性のある風速の最大値を統計的に推定し、それを「極値風速」と呼んでいるのです。
RI:初めてきちんと「極値」の意味が理解できました。前回、「基準風速とは、10分平均風速のうち、再現期間50年に相当する極値」と習ったのですが、「基準風速」と「極値風速」はどのような関係にあるのでしょうか?
YU:端的に言えば、基準風速は極値風速の一種です。ただし、基準風速は、風車の設計基準として規格で定められた代表値という位置づけになります。例えば、あるサイトに新規で風車を建設するとします。その際、まずサイトにおける極値風速$U_{h}$を推定します。そして、その値と風車の基準風速$V_{ref}$を比較することにより、その風車を建設しても安全かどうかを判断する、という使い方をします。つまり、$U_{h} < V_{ref}$であれば、風車は極値風速に耐えられそうだ、ということです。
もう少し厳密に言うと、風条件の評価は2種類の極値風速に対して行われます。この2種類は時間平均の取り方が異なっており、ひとつは10分平均風速、もうひとつは3秒平均風速を対象としています。サイトにおける極値風速のうち、10分平均風速に対して定義したものを$U_{h}$、3秒平均風速に対して定義したものを$U_{e50}$と表します。また、それに対応する設計基準における極値風速を、それぞれ$V_{ref}, V_{e50}$と表します。このうち、$V_{ref}$については特別に「基準風速」という呼び名が付いています。
極値風速の評価
| 評価パラメータ | サイト | 設計基準 |
|---|---|---|
| 10分平均風速(最大風速)の50年再現期待値 | $$U_{h}$$ |
$$V_{ref}$$
※この値を「基準風速」と呼ぶ
|
| 3秒平均風速(最大瞬間風速)の50年再現期待値 | $$U_{e50}$$ | $$V_{e50}\,(\,= 1.4 V_{ref})$$ |
風車は、突風などの短時間の強風によって瞬間的に大きな力を受けると、破損する可能性があります。そのため、3秒平均風速(最大瞬間風速)に基づく極値風速$U_{e50}$を評価する必要があります。なお、$U_{e50}$は10分平均風速に基づく極値風速$U_{h}$から定めることができます。
RI:極値風速の種類や役割、設計基準との対応関係がようやく整理できました。ここまで来たら、サイトの極値風速の具体的な算出方法が気になります。
YU:お!それは良かったです。
極値風速の算出方法はいくつか存在しますが、今回は陸上案件の実務で広く用いられているNKガイドライン(※1)に基づく方法を紹介します。まず、10分平均風速の50年再現期待値$U_{h}$は次式で求められます:
\begin{equation}
U_{h} = E_{tV} E_{pV} V_{0}
\label{eq:1}
\end{equation}
$E_{tV}$: 地形による平均風速の割増係数
$E_{pV}$: 高度補正係数
$V_{0}$: 基準風速
(※1)ウィンドファーム認証 陸上風力発電所編 2024年9⽉
次に、この$U_{h}$を用いて、3秒平均風速の50年再現期待値$U_{e50}$を算出します:
\begin{equation}
U_{e50} = G_{f} U_{h}
\label{eq:2}
\end{equation}
$G_{f}$: ガストファクター
ガストファクター$G_{f}$は、短時間平均風速(ここでは3秒平均)と10分平均風速との比を示す係数で、一般に1.5~2.0程度となります。なお、IEC61400-1に基づく風車の設計基準では、基準風速$V_{ref}$に対して
\begin{equation}
V_{e50} = 1.4 V_{ref}
\label{eq:3}
\end{equation}
が用いられています(表1)。一般的な経験値とはやや異なりますが、IEC61400-1では設計上の扱いとして$G_{f} = 1.4$が採用されています。ただし、この値は標準的な条件を想定したものであり、実際には地形や風況によって変化します。この点については、また別の機会に触れたいと思います。
では、ここから式(\ref{eq:1})について解説していきます。基準風速$V_{0}$は、地表面粗度区分Ⅱ(表2)に相当する平坦地形での地上高さ10mにおける再現期間50年の10分平均風速を指します。地表面粗度区分は、地表面の粗さの程度(凹凸具合)を表します。もともとは建築物の耐風設計の基準として定められた風速で、強風による倒壊や破損を防ぐことを目的としたものです。この値は国土交通省により市町村ごとに定められており、図3のような基準風速マップに整理されます。同一名称で紛らわしいのですが、風車の設計基準で用いられる基準風速$V_{ref}$とは別物なので、注意が必要です。
地表面粗度区分
| 地表面粗度区分 | 地表面の状況 |
|---|---|
| $$\text{I}$$ | ほとんど障害物のない平坦な地域。 例)海、湖 |
| $$\text{Ⅱ}$$ | 海岸線(湖岸線)から500m以内に位置しており、高さ数mから10m程度の障害物が散在している地域。 例)1~2階建ての建物が中心の田園地帯 |
| $$\text{Ⅲ}$$ | 海岸線(湖岸線)から500m以上離れており、高さ数mから10m程度の障害物が多数存在している、あるいは、4~9階建ての建物が散在している地域。 例)都市周辺地域、工業地帯、森林地帯 |
| $$\text{Ⅳ}$$ | 4~9階建ての建物が密集している地域。 例)都市域 |
高度補正係数$E_{pV}$は、基準風速$V_{0}$(地上高さ10m)をハブ高の風速へ変換するための係数です。風条件の評価はハブ高における風速や乱流強度を対象とするため、この補正が必要となります。$E_{pV}$は表2の地表面粗度区分に応じて定められており、これは「地表が滑らかなほど風速は高く、粗いほど低くなる」という風の特性に基づいています。
地形による平均風速の割増係数$E_{tV}$は、基準風速$V_{0}$を平坦地形での値から、実際に風車が建設される複雑地形での値へ変換するための係数です。地形の違いによる風速変化は実測のみでは把握できないため、数値シミュレーションにより推定します。具体的には、モデル内で平坦地形と複雑地形を切り替えて、それぞれの地形における風速の比をとることで、この係数を算出します。なお、シミュレーションでは同時に極値統計の考え方も取り込まれます。すなわち、過去に観測された風速の時系列データから風車位置での風速を予測し、さらに統計的な処理を施すことで、再現期間50年に相当する風速が推定されます。つまり、$E_{tV}$は「地形効果」と「極値統計」の両方を反映した係数なのです。
RI:なるほど。$V_{0}$や$E_{pV}$はサイトの位置情報をもとに選ぶだけでよいですが、$E_{tV}$は数値シミュレーションにより求めなければならないのですね。ところで、図3を見ると、沖縄の基準風速$V_{0}$がやけに大きいですが、何故でしょうか?
YU:良いところに気づきましたね。沖縄の基準風速$V_{0}$が全国最大となる理由は、台風の影響です。沖縄は台風の通過頻度が高く、しかも勢力の強い状態で上陸・接近しやすい地域です。そのため、過去の観測データに基づいて極値統計を行うと、再現期間50年に相当する風速が他地域よりも大きくなります。基準風速マップは、こうした台風による強風の実績も踏まえて作成されています。
先ほど、$E_{tV}$は数値シミュレーションにより求めるとお話ししましたね。実は、このシミュレーションには方法が2通りあり、台風の影響が支配的な地域では、別途「台風シミュレーション」を行います。
台風シミュレーションでは、台風情報データベース(※2)を用います。データベースに含まれる過去の台風の経路や強度の記録から得られた統計的な傾向(平均やばらつき)をモデル化し、それに基づいて疑似的に長期間の台風を発生させることで、風車設置地点における台風最接近時の風速を確率的に予測します。さらに、これに極値統計を適用し、再現期間50年に相当する風速を推定した値が台風の影響を考慮した極値風速となります。
(※2)日本気象庁 |RSMC東京 – 台風センター |ベストトラックデータ
NKガイドラインでは、$E_{tV}$を風向別に算出し、その最大値をサイト全体の代表値として扱います。このとき重要になるのが「風向特性」という考え方で、これは「極値風速がどの風向で発生しやすいか」という方向依存性を指します。
台風による強風が支配的でない場合、風向特性を考慮せず、強風はどの風向でも同程度に発生し得るという仮定のもとで極値風速評価を行います。この場合、強風は主として発達した温帯低気圧により発生すると考えます。気圧配置は季節によって変化し、それに伴い卓越風向も移り変わるため、長期間で見ると風向の偏りは小さくなります。北海道・東北・北陸では、冬から春先にかけての発達した低気圧が強風の主原因となるため、風向特性を考慮しない手法により極値風速を評価するのが一般的です。
一方、台風による強風が支配的な地域では事情が異なります。特に、関東から九州にかけての太平洋沿岸地域では、台風の接近により最大風速が40m/sに達することもあります。台風の進路はある程度限定されるため、強風が吹く風向も特定の範囲に集中します。これがまさに、風向特性を持った状態です。このような場合には、台風時の風向特性を考慮することで、$E_{tV}$の過大評価を緩和することができます。この時の$E_{tV}$は、台風シミュレーションにより、平坦地形において求めた極値風速と地形の影響を考慮した極値風速の比として算出されます。
RI:「地形による平均風速の割増係数」という名称から、$E_{tV}$は地形効果を加えるためだけの係数だと思っていました。でも、今の説明を聞いて少し考えが変わりました。
基準風速$V_{0}$は、気圧配置や台風などの総観規模の現象を含んだ値として与えられている。一方で、山・谷・平野などの地形による局地的な影響については、$E_{tV}$によって補正が行われる。ただし、強風の発生メカニズム、すなわち、気圧配置による強風か、台風による強風かといった違いによって、$E_{tV}$の算出方法を変えて評価する必要がある、と理解できました。だから、風向特性を考慮する手法と考慮しない手法の2通りがある、という整理になるわけですね。
YU:その通りです。一歩踏み込んだ理解ができましたね。
今回は、風条件を規定する重要なパラメータの一つである「極値風速」について解説しましたが、設計風条件にはもう一つ欠かせない要素があります。それが「乱流強度」です。次回は、この乱流強度が風車設計にどのように関わるのかを詳しくお話しします。どうぞお楽しみに。
さらに詳しく知りたい人へ
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