筆者は、1990年代後半から、大学在籍中に風力発電に関する技術的なノートを個人のホームページに不定期に公開していました。このノートは当時研究者として興味を持っていたトピックを思いつくままに書き記していたもので、風車の基礎理論、IEC規格の乱流強度や風車性能評価方法などに関して紹介していました(当時のブログや、今ではno+e(※1)というサービスのようなものです)。学会などの場で、初対面の人から見ています、とお声がけいただき、それなりにお役に立っているのかなと思ったものです。まだ1MW風車が市場に出始める頃です。その後コンサル会社に仕事の場を変えた事もあり休眠しておりました。
話は逸れますが、筆者が風力発電の研究に進むきっかけは何だったか思いを辿ると、小学生の時に友人と見た池に浮かんでいた魚たちで、授業で公害の事を学んでいたのかもしれませんが、「将来水をキレイにする機械を作る」(いわば環境に優しい装置の開発)などと、その時思った事が以降通奏低音のように流れていたと思います。その後、「成長の限界」の池の睡蓮問題(※2)を例にした幾何級数的システムによる人類社会への警告に茫漠たる不安を覚えたりしました。当時は、地球温暖化が一般に今よりあまり関心を持たれていなかったように思います。入学した大学で風車を研究している事を知り、これをやりたいと思ったのを覚えています。研究室に配属されて以来、風車一筋の人生です。
日本の風力は2011年のFIT法により太陽光を中心に再生可能エネルギーの導入が進み、2019年の再エネ海域利用法で洋上風力の導入を政府として推進する事が決まり、洋上風力はエネルギーセキュリティの観点からも国産のエネルギー源として主力電源の1つと位置付けられました(※3)。2024年末に公表された第7次エネルギー基本計画原案では、再エネはkWhベースで、2040年に全体の40~55%(2023年22.9%)、太陽光22~29%(同9.8%)、風力4~8%(同1.1%)とされました(※4)。発電ですから、信頼性と低コストを達成しなければなりませんが、まだ道半ばです。しかし、まだまだこの業界には人も物も目標に対して足りていません。筆者らは、日本風力エネルギー学会※5で理事を務めている事もあり、「人材育成」の取組の一つとして、特に若い人に向けた風力に関するノートを新装風車ノート(風車ノート2.0)として再開する事にしました。今では、いろいろなプラットフォームで風力に関する多くの情報を見る事ができますが、風車ノートでは風力コンサルの立場から、どちらかと言えば基礎的な情報を扱いたいと思います。前回と違い、今回は弊社の専門家がアンソロジー形式で不定期にノートを書き記しますが、読んでいただいた方に少しでも参考になれば幸いです。(HI)
※1 no+eはメディアプラットフォームの一つで、風力発電に関する記事(時事が多い)も多数あります。https://note.com/search?q=%E9%A2%A8%E5%8A%9B&context=note&mode=search
※2 ドネラ H.メドウズ、成長の限界:ロ-マ・クラブ「人類の危機」レポ-ト、邦訳版、ダイアモンド社(1972)より以下引用:
「あなたが池を持っていて、その中で睡蓮を育てているとする。その睡蓮は、毎日、2倍の大きさになる。もしその睡蓮がとどめられることもなく成長するならば、30日でその池を完全におおい尽くして、水の中の池の生物を窒息させてしまいそうだ。しかし、長い間、睡蓮はほんの小さなものだと思っていたので、それが池の半分をおおうまで、それを刈ることにわずらわされまいと、心にきめていたとする。いつ、その日がくるだろうか。答えは、もちろん29日目である。あなたは、あなたの池を救うのに、1日しか残されていないのだ。」
※3 再生可能エネルギーに関する制度は「なっとく!再生可能エネルギー」を参照して下さい。https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/index.html
※4 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第67回会合)https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/067/
※5 日本風力エネルギー学会:https://www.jwea.or.jp/
(以上、最終確認2025年1月3日)